「食」を科学する株式会社味香り戦略研究所(本社:東京都中央区、代表取締役社長:小柳道啓、以下「味香り戦略研究所」)は、飲料のリフレッシュ感の評価について時系列官能評価を用いて数値化する手法を開発しました。
飲食の際、口の中の味わいや感覚は時間とともに変化し、特に食品を食べた後に飲料を飲むことでリフレッシュ感が生じます。本試験では、このリフレッシュ感の変化を明確に捉えるために、飲料と食品を交互に飲食しながら評価を行いました。リフレッシュ感の測定には、「時系列官能評価」の一種である “Time Intensity(時間強度、TI法)” を活用し、味わいの強さの変化を観測し続けることでリフレッシュ感の評価パターンを見出しました。
サマリー
●飲料のリフレッシュ感について時系列官能評価を用いて評価する手法を開発しました。
●本試験では、ビール・レモンサワー・日本酒・ハイボールの4種類の飲料×マグロ刺身・唐揚げの2種類の食品を組み合わせてリフレッシュ感を検証しました。
●味わいの変化パターンは、飲料によってリセットされることにより味わいが一定であり続けるリフレッシュ感の強いパターン、相乗効果により味わいが増幅されるパターン、飲料のみ味わいが強まるパターンの3つに分類できました。
●酒の味わいが目立つ場合には、濃い味の食品との食べ合わせが良いことが示唆されました。
食事の合間に飲料を口にすると、「すっきりする」「口の中がリセットされてまた食べたくなる」と感じることがあります。例えば、揚げ物の後に炭酸飲料を飲んだとき、甘いスイーツの後にお茶をひと口含んだとき、さらには食事中に酒を合わせたときなど、その感覚はさまざまなシーンで体感できます。これまで、この「口の中のリフレッシュ感」は主観的な感覚に依存しており、定量的に評価することは難しいものでした。そこで今回、味香り戦略研究所では、リフレッシュ感を評価・数値化する手法について時系列官能評価を用いて検証しました。
また、特に飲酒時は、通常の食事よりも喫食時間が長くなることが多く、量も多くなるため、おいしく飲食し続けるには飽きを抑制する要素が重要になります。そこで本試験では、食事に酒を合わせたときのリフレッシュ感を見える化することを目的に、味わいの異なる酒4種類と、おつまみとして食べられる味わいの異なる食品2種類を試験サンプルとして実施しました。
試験設計
本試験では、酒によるリフレッシュ感の評価を行うため、時系列官能評価(Time-Intensity法、TI法)および評点法を用いた官能評価を実施しました。

- 試験サンプル
酒:ビール、レモンサワー、日本酒、ハイボール
食品:マグロ刺身、唐揚げ
酒と食品の組み合わせ計8条件で評価を行いました。 - 試験方法
〇TI法(Time-Intensity法)
「酒 → 食品 → 酒 → 食品 → 酒」の順で摂取し、“味の強さ”の経時変化を評価しました。
味の強さは、1回目のビールを飲んだ際に得られた最大値を約50になるよう定義し、その値を基準として評価しました。
〇評点法
“酒を摂取した後の味のすっきりさ”と“酒と食品の組み合わせの味の好ましさ”を評価しました。

値は味覚センサ(TS-5000Z:株式会社インテリジェントセンサーテクノロジー製)測定値を標準化して算出
考察
味の強さの評価結果から、その変化は3つのパターンに分類できました。
- パターン1:リフレッシュ感が強い
- パターン2:味わいの相乗効果
- パターン3:飲料の味わいの増幅
パターンごとに、TI 法(Time-Intensity 法)による味の強さの評価結果と、評点法による味のすっきりさと好ましさの評価結果を図に示しました。
パターン1【リフレッシュ感】:ビール×刺身、レモンサワー×刺身、ハイボール×刺身、ハイボール×唐揚げ

酒と食品の味の強さが一定に保たれており、評点法では味のすっきりさが強いと評価されました(図2)。これは、リフレッシュ感を強く感じられる組み合わせと言えます。
リフレッシュされた要因として、大きく2種類に分けられると考えられました。一つ目は、酒の味わいによってリフレッシュされることです。ビールは苦味、レモンサワーは酸味が強い味わいであり(図1)、パネリストからのコメントでは、それぞれ苦味と酸味によって刺身の味がリフレッシュされたとありました。これは、酒の強い苦味と酸味によって、刺身のうま味や塩味等の味が打ち消されることでリフレッシュされたと考えられます。
二つ目は、飲料の炭酸によってリフレッシュされることです。ハイボールでは、炭酸によってリフレッシュされたとのコメントがありました。これは、炭酸の泡立ちによりパチパチとした刺激によって刺身の呈味物質が流されやすくなり、リフレッシュされたと考えられます。また、ハイボールが酸味や苦味が突出していない味わいであることも(図1)、唐揚げの呈味物質に反応することがなくリフレッシュ感に繋がったと考えられます。
パターン1のうち、ビール×刺身とハイボール×刺身で、味の好ましさが低い結果となりました(図2)。TI 法の結果からは、酒よりも食品の方が味が弱いと評価されていました。つまり、酒の味わいが目立ってしまう組み合わせは相性が悪い可能性があり、そのような場合には、より濃い味わいの食品との組み合わせが適していると考えられます。フードペアリングの観点では、組み合わせる酒と料理は似た味や香りのものが合うとされ、濃い味の酒には濃い味わいの料理が適していることも知られています1)。本試験の結果は、既存の知見とも一致するものとなりました。
パターン2【味わいの相乗効果】:レモンサワー×唐揚げ、日本酒×刺身

飲食を繰り返すほど味の強さが高まる傾向がみられました(図3)。また、味のすっきりさは弱い一方で、味の好ましさが高く評価されています。これは、飲食を重ねるほど味わいが蓄積・増幅され、酒と食品の味の相乗効果が起こり、好ましさも向上したと推察されます。
うま味成分同士が組み合わさると、うま味がさらに強くなることがあります2)。そのことからも、日本酒の強いうま味が(図1)、刺身のうま味と合わさることで味の強さが高まり、相乗効果が得られた可能性があります。
レモンサワーは酸味が強い味わいです(図1)。うま味は中性付近で最も感じやすくなるため、レモンサワーを飲んだ後に唐揚げを食べると、唾液によって口内のpHが中性に戻り、酸味との対比でうま味がより引き立ち、このような結果になった可能性が考えられます。
また、このような飲食を繰り返すほど味の強さが高まる酒と食品の組み合わせは(図3)、食品がよりおいしく感じられる組み合わせと言えます。
パターン3【飲料の味わいの増幅】:ビール×唐揚げ、日本酒×唐揚げ

食品の味わいは大きく変化しませんでしたが、酒の味わいは増幅する傾向がみられました(図4)。唐揚げは飲み込んだ後も口の中に粘度の高い食塊が残り続けると考えられます。その食塊の呈味物質が残り続けることで、酒を飲んでいる時にも、この呈味物質の味わいが加算され、酒の味わいが増幅されたと考えられます。
このように、酒の味が強くなるような酒と食品の組み合わせは(図4)、酒がよりおいしくなり、酒が主役となる組み合わせと言えます。
今後の展望
今回の結果から、酒と食品の組み合わせによって、リフレッシュ感や好ましさが大きく変化することがわかりました。本試験のような調査を実施することで、これらの選択肢を活かしたメニュー提案や商品開発が期待できます。たとえば、味のすっきり感を重視したい場合には、パターン1のように飲食を繰り返しても味わいが一定でリフレッシュ感を得やすい組み合わせが適していると考えられます。この場合、苦味や酸味が強い味わいになっている、あるいは炭酸の刺激が強い飲料が適しています。一方、パターン2のように、味わいが蓄積・増幅する相乗効果が得られる組み合わせも好まれると考えられ、この場合、うま味、あるいは塩味が強い飲料で、同様の結果になるかもしれません。

本試験の結果、食品の味わいが酒よりも強くなるペアリングは、好ましい組み合わせとして高い評価を獲得することが明らかとなりました。このデータは、販売戦略においても、飲料や食品の価値向上につなげられるエビデンスになりうると考えています。具体的には、飲食店等で相性の良い酒と食事の組み合わせをメニューやディスプレイで提案することで、クロスセル効果や顧客体験の向上が見込まれます。また、POP、パンフレット、デジタルサイネージなど各種販促ツールを活用した情報発信により、単品購入に留まらず併売を促進する施策も考えられます。さらに、スーパーマーケット等の小売店では、本データに基づく提案資料によって最適なペアリングをアピールし、実際の試飲イベントやデモンストレーションを通じて消費者に体感してもらうことで、商品の価値向上と売上拡大が期待できます。
今回の検証では、酒と食事の組み合わせを検証しましたが、同様の評価手法は酒×デザートのように甘いものとの組み合わせや、酒以外の炭酸飲料や茶など、他の飲料にも応用可能です。特に今回の試験サンプルにはなかった甘味の要素がある組み合わせを行った場合に、本試験で得られた3つの分類以外の新たな味わいの変化パターンが発見されるかもしれません。
本試験では、飲料によって味わいがどのように変化し、食品の感じ方に影響を与えるのかを評価することで、リフレッシュ感の特性をより詳細に捉えることができました。今後は、異なる種類の飲料や食品を試験サンプルとして検証を行ったり、味覚だけでなく、香りや食感等の要素もリフレッシュ感に寄与する可能性があるため、総合的な評価を実施したりすることで、理解を深めながら多角的にメカニズムを明らかにしていきます。
さらに、今回の手法を応用することで、「リフレッシュ感」だけでなく、「キレ」や「飲み心地の変化」といった、これまで感覚的に語られることの多かったおいしさの表現についても定量的に評価できる可能性があります。今後も官能評価等を通じて、感覚の見える化に取り組んでいきます。
引用
- 千葉麻里絵・宇都宮仁「最先端の日本酒ペアリング」旭屋出版.2019
- 太田静行「うま味調味料の知識」幸書房.1992
味香り戦略研究所について
「食」を科学する株式会社味香り戦略研究所では、味・香り・食感等の「おいしさ」の可視化技術を活用し、相対評価で捉えられていた感性数値を客観化して、評価基準、尺度としての活用を可能にしました。設立以来、食品のデータ化を続け、現在では12万件を超える食品の味覚データベースを構築しています。これを基に、食品の開発や品質管理、市場調査、海外マーケットに向けた味のカスタマイズ等、食にまつわるさまざまな課題にデータを活用するフードデジタルソリューションサービスを提供しています。
【会社概要】
株式会社 味香り戦略研究所【https://mikaku.jp/】
本社所在地:東京都中央区新川1-17-24 NMF茅場町ビル8F
代表取締役社長:小柳 道啓
設立年:2004年9月
事業内容:フードデジタルソリューション事業
本件に関する問い合わせ先
味香り戦略研究所 コンサルティング事業部
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