味や香りを科学的な手法で分析評価する株式会社味香り戦略研究所(本社:東京都中央区)は、ここ数年話題になっている味わいである「コク」に関する意識調査を実施しました。[調査実施期間:2016年8月9日~16日/調査対象:全国の10代~70代の男女661名(男性:女性=3:7)]
結果を見ると「好きな味」については「旨味・コク」が回答の中で一番多く【図1】、回答者の6割以上が、以前よりここ2年ぐらいでコクがウリの商品(以下「コク商品」)を選ぶようになったと答えています【図2】。また回答者の9割以上は新しいコク商品が出たら試してみたいと答えていることから【図3】、現状コクは定着しており今後はコク商品が更に多様化することが想定されます。
しかしながら消費者は、商品のコクの有無について個別商品のパッケージに由来する一次的な情報に頼るしかないのが現状です【図9】【図10】【図11】。 味香り戦略研究所ではコク商品のパッケージに客観的なコク情報を搭載する必要性について提言いたします。
サマリー
■コク人気は定着~「コクで買う・売れる」商品の増加~
■コクは「味」+「質」(時間、程度、クオリティ)~純粋な味覚だけじゃないコクの秘密~
■「見た目」と「味」~ギャップが大きいコク商品のパッケージ~
■定着したコクは「程度」を選ぶ時代へ~コク・インジケータの可能性~
コク人気は定着~「コクで買う・売れる」商品の増加~
<意識調査:圧倒的な1位(2位<甘味>のダブルスコア)>
<購買意向調査:2年前より「選ぶようになった」人が6割、「試したい」人が9割>
<市場調査(日経POS):インスタントコーヒーのコク商品は売上伸張>
一般調査では、10代~70代の男女661名を対象に、各人の好みの味からコクに関する意識やそれに対する嗜好と理由、「コク」という言葉へのイメージなど、コクに対する全般的な関心について質問しました。
好きな味について調べたところ、「旨味・コク」が最も多く、続いて「甘味」という結果になりました【図1】。また「五味」に含まれない味要素として今回新たに回答に加えた選択肢、「スパイス・刺激味」と「辛味」に26.0%の回答がありました。消費者の嗜好には多様な側面があることが見て取れます。
次に、ここ2年ぐらいで実際にコク商品を選んでいるのか、選ぶようになったのか聞いたところ「選ぶようになった」という回答が62.3%を占めました(前年62.0%)【図2】。新しいコク商品が出たら「試してみたい」という回答も、前回同様9割を超えましたが【図3】、「ぜひ試してみたい」と積極的にコク商品を試したいという回答は前回の60%を下回り、逆に「やや試してみたい」と「どちらかといえば試してみたい」という回答が前回を上回りました。この結果はコク商品に目新しさは感じなくても興味を失ったわけではない消費者の心理と、コク市場がある程度成熟したことの現れであると考えられます。
具体的にどのような食品にコクを求めるのかを聞いたところ、前回同様「カレー・シチュー等」が最多で83.8%に上りましたが、注目すべきは前回4位(24.5%)のコーヒーが前回2位(65.1%)の調味料を抜いて、今回2位(33.3%)にランクインされたことです【図4】。
以下は、日経POS EYESのコーヒー(商品カテゴリ:インスタントコーヒー・全商品)の2年分の販売データ(ABCランキング)です。表示は上位17位までですが、コク商品の伸張が目立ちます。
【図5】は、左側に2014年9月から2015年8月まで、右側に2015年9月から2016年8月までのインスタントコーヒーの販売順位と千人当り金額を示しており、直近の一年間(右側)と前年(左側)の販売金額を比較すると、直近の一年間が390千円(5.4%)増加しています(合計参照)。
内容を詳しく調べると「ネスレ ネスカフェ ゴールドブレンド コク深め」の各商品(2015年9月1日発売)の千人当り金額が直近の一年間で527千円増加したことが分かります【図6】。これはメーカー側の商品ラインナップ数の増加という側面はあるにせよ、インスタントコーヒー全体の千人当り金額の増加分を上回っており(但し前述POSデータに限る)、インスタントコーヒー市場にコク商品の一定ニーズがあることが証明された結果といえます。
一方、調味料自体にコクを求めるとした回答数の減少は、スマートフォンやタブレット端末の普及により、複数の調味料を用いたり(ちょい足し)、素材を補完すること等でコクを出す工夫(技)が、料理のレシピサイト等で簡単に入手、共有できるようになったことに起因するのかもしれません。
コクは「味」+「質」(時間、程度、クオリティ)~純粋な味覚だけじゃない?コクの秘密~
<意識調査:深み、余韻、複雑さ…「贅沢感」に結びつく味要素が「コク」の正体>
更にコクとはどのような味だと認識しているかを聞いたところ「深み・奥行き」が最も多く、次に「旨味」、「濃厚さ」という回答が続きました。消費者にとってコクとは、酸味や塩味と同様な「味の一種」であるとともに、複雑さや余韻といった「味の質」と認識されていることが分かりました【図7】。
また、「旨味・コク」を好きな理由について聞いたところ、「塩分が少なくても美味しさを感じられる」、「塩分を控えられる」といった「減塩」との関係を意識した回答や、「満足度が高い」、「満足感が増す」、「贅沢感がある」といった、コクが「満足」に寄与するとした回答、或いは「美味しい」、「美味しさに不可欠」といった、「美味しさ」に直結する味であるという回答が得られました。更に、「素材本来の味がする」、「素材を引き立てる」という回答や、「味に深みがでる」、「奥行きのある味が好き」といった、単に濃い・薄いにとどまらず、立体的に味を表現した回答、また「日本人特有の味覚」、「日本人だから」などといった国民性に言及した回答も見受けられました。
「旨味・コク」が好きと回答した661名中495名のうち9割近くからその理由について多種多様な表現が寄せられました。
次に、コクのあるものを食べたい・飲みたいと思うシーンについて聞いたところ、「贅沢感を味わいたいとき」、「上質な気分を味わいたいとき」という回答に、「ゆっくりとリラックスしたいとき」、「日々のストレスから開放されたいとき」という回答が続きました【図8】。この結果から、前回のアンケート同様、コクに求めるものは、非日常であり精神的な解放であることが分かりました。さらに今回は「お酒の味にコクがないとき」、「満足感、満腹感を味わいたいとき」といった食べ合わせを意識した回答や、「満足、満腹」といった心身の充足感に不可欠であるという回答が加わりました。
商品の何を見てコクの有無を判断しているのかという問いには「キャッチコピー」と「商品名(ネーミング)」という回答が半数以上を占めました【図9】。
また、コクを連想させる言葉について聞いてみると「深み・奥行き」、「旨味」が回答の半数以上を占め、次いで「リッチ(豊かさ)」、「濃厚さ・濃い味」、「上質(プレミアム)」が続きました【図10】。
コクを意識した言葉のほか、色を含むパッケージのデザインも商品の特徴を伝える重要なファクターです。今回コクを連想させる色については「金」、「赤」、「青」、「紫」、「黄」、「緑」の順に、また同じ色ならば薄い色よりも濃い色の方がコクを連想させるという回答が得られました【図11】。
消費者は商品パッケージ搭載情報のうち、主にキャッチコピーやネーミングの中に含まれる特定のコクを連想させるワードと、パッケージの色やその濃淡でコクの有無を判断しています。しかしながら実際に食べたり飲んだりした際、購入前に抱いたイメージどおりのコクを味わえているのでしょうか。
「見た目」と「味」~ギャップが大きいコク商品のパッケージ~
<意識調査+味分析:コクのイメージ…カレーは「見た目」と「味」がほぼ一致、
コーヒー、ドレッシングは「見た目」と「味」の乖離が大きい>
以上の結果を踏まえ、味香り戦略研究所では、カレー、チルドコーヒー、ドレッシングの3つの食品カテゴリで、商品のパッケージにおけるコク訴求について検証を行いました。検証は市販の商品パッケージ写真から、最もコクがありそうだと感じるものを選択して貰い、味データと照合するという方法で行いました。結果は、パッケージ=見た目で選んだ「コク」と、味データでの「コク」の間に乖離があることがわかりました。
【調査結果~カレーの「味」×「見た目」~コク感はほぼ一致】
弊社ではカレーのコクを「苦味」と「旨味」に起因する「複合味」と定義しています。【図13】の味データを見るとコクを示す味覚の評価軸(苦味雑味/食)の値が「A」は最も大きく、アンケートの回答結果と一致したことから、「ハウス 熟成コクデミカレー中辛」は、商品のコクをパッケージで伝えることに成功しているといえます。
チルドコーヒーの場合「A」の商品が最もコクがありそうな商品に選ばれました。
【図15】で味データを示します。
【調査結果~チルドコーヒーの「味」×「見た目」~コク感の乖離は大きい】
チルドコーヒーのコクは先味の「苦味」、「味の濃さ」、後味の「ミルク感」と「苦味の余韻」が大きな要素です。赤色の「A」の場合「うまみ」の値は他に比べ大きいのですが、前述の四つの味の強弱とバランスで判断すると「C」と「E」が他に比べてコクが強い商品と考えられ、今回の調査では【図11】、【図14】とやや異なる結果となりました。
【調査結果~ドレッシングの「味」×「見た目」~コク感の乖離は大きい】
ドレッシングの場合、商品のパッケージから最もコクがありそうだとされたのは「A」でしたが、【図17】の味データが示すコクの値が最も大きいものは「E」であり、今回の調査では【図11】、【図16】とやや異なる結果となりました。チルドコーヒー同様、ドレッシングについても消費者の潜在意識とコク商品のパッケージ、商品名に消費者の認知、感覚が必ずしも一致していない可能性があります。
定着したコクは「程度」を選ぶ時代へ~コク・インジケータの可能性~
コクの有無が問われた時代から、より細かな「程度」を求めるニーズが到来する?
<ちょいコク、まろコク、たっぷりコク、etc.>
美味しさや満足に繋がるコクは、先に見たように「味」+「質(贅沢感)」が結びついた概念です。必ずしもコク志向ではなく、「贅沢さ」を印象づけたい商品のパッケージが消費者に「コクあり」と認識される理由は、コクという概念の複合性に起因する可能性があります。
一方今回の調査では、コク商品自体が一時的なトレンドから定着のステージに入ったことが示唆されました。かつてスパイスやハーブが、それらの「有無」から「程度/使い分け」に進んだように、今後のコク商品も「程度」を選ぶニーズが高まってくることが予測されます。
その際、商品パッケージのデザインに関わらず、消費者が求める「コクの程度」を正しく伝えられるコク・インジケータは、メーカーと消費者双方をつなぐコミュニケーションツールとなり得る可能性があります。言葉でも色でもなく「コク」そのものが可視化されたパッケージデザインで、消費者がお望みのコクを「使い分ける時代」が近づいているのかもしれません。
■調査実施概要
調査名「コクに対する意識調査」
調査対象者:全国の10代~70代男女
調査方法:インターネット調査
調査実施会社:総合商研株式会社
調査実施機関:2016年8月9日~16日
味香り戦略研究所について
味覚センサなどによる食品の味の数値化がコア技術。
2004年9月の設立以来、蓄積した12万アイテムを超える味データなどをデータベース化し、商品開発や品質管理、売場づくりといったコンサルティングを行うほか、独自のノウハウを基に味にまつわるセミナーや講演活動を行い、食品産業の発展に貢献しています。
【URL https://www.mikaku.jp/】
本件に関する報道関係者 お問合せ先
株式会社味香り戦略研究所 吉田、早坂
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