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自主研究

ビール業界にパラダイムシフト
「コク・キレ」の時代から「香り」で選ぶ時代に

味や香りを科学的な手法で分析、評価する株式会社味香り戦略研究所(本社:東京都中央区) は、弊社保有の味覚データなどからビール市場の味わいの変化を探り、2018年4月の酒税法改正によるビール定義の変更に伴う今後のポイントを検証した。


サマリー

■酒税法改正後は、『苦味』と『酸味』の質の変化に注目

酒税法改正後(2018年4月)に発売されたビールは、濃厚さと控えめなキレ (酸味由来)が特徴であった。使用できる副原料の範囲が拡大したことによる『苦味』と『酸味』の質の変化に今後は注目である。

■今後の商品設計は、『香り』がポイント

ビールと新ジャンル(第三のビール)の味わいが多様化し、味に対する各ジャンルの垣根が低くなり、味のみでの特徴づけが難しくなると予想される。それゆえに今後は、味はもちろんのこと『香り』に特徴を付加させた商品が今まで以上に増加すると考えられる。


消費が低迷していると言われているビール市場だが、2018年4月の酒税法改正によるビールの定義について、麦芽比率が引下げられ(67%→50%)、使用できる副原料の範囲が拡大したことで、4月以降メーカー各社からはこの新しい定義に基づいた新商品が続々と発売されている。 法改正以前は、麦芽比率が規定内であっても副原料に規定以外のもの(香辛料、ハーブ、果実等)を使用すると発泡酒の扱いとなっていたが、改正後はこれら副原料の使用範囲が拡大され、 規定に定められている物であり、かつ使用可能重量内であれば、ビールとして販売することが可能となった。酒税法改正における今後の期待としては、味わいの多様化による消費者の選択肢の増加や、ハーブ等によるにおいの付与などが挙げられるが、実際はどのように変化していくのだろうか。

味分析結果によると、酒税法改正後に発売されたビール(旧法での発泡酒カテゴリ)の味わいは、全体的には濃厚さと控えめなキレ(酸味由来)が特徴であり、これまでのビールにはあまりない個性的な味バランスの商品が現れている。また使用できる副原料の範囲が拡大し、柑橘類のピールや果汁が使用可能になったことによる、これまでのビールから連想される苦味やキレとは異なる『苦みと酸味の質の変化』にも注目したいところである。 加えて、10年前と現在の商品群を味データから検証した結果、10年前に比べると新ジャンル (第三のビール)の味わいが多様化し、ビールに近い味バランスの商品が多くなっていることが わかった。

新ジャンルの味わいの多様化に加え、酒税法改正によりさらに多彩になると考えられるため、ビール・発泡酒・新ジャンルというカテゴリ毎の味の垣根が低くなると推測できる。ゆえに今後は、商品の特徴付けを味のみで行うのが難しくなると予想されるため、味はもちろんだが『香り』に特徴を持たせた商品が今まで以上に増加すると考えられる。

直近10年での変化は、新ジャンル(第三のビール)における味の多様化

2007〜2008年(10年前)と2017〜2018年3月までに販売されていた大手4社(アサヒビール株式会社、麒麟麦酒株式会社、サッポロビール株式会社、サントリービール株式会社)のビール・発泡酒・新ジャンルの味データから、ビール類の特徴的な味である『苦み』と『キレ』のバランスを検証し、10年前と現在の味の傾向を示した。

※2007〜2018年の間に販売されたビール・発泡酒・新ジャンル約1100種の平均をゼロとした。
※1.0の差が濃度差約20%(大多数の人が異なる味わいと感じる濃度差)である。

【図1】2007〜2008年の全体感
【図2】2017〜2018年の全体感

図1、2で示したように、10年前と現在の商品群との一番の変化は、新ジャンルにおける味わいの広がりだと考えられる。10年前の商品群では、発泡酒と新ジャンルのポジショニングは比較的類似しており、ビールに比べてキレが強く苦味が控えめな味わいが特徴であった。一方現在は、ビール(苦みが特徴でキレは控えめ)と発泡酒(キレが特徴で苦味は控えめ)における違いはある程度明らかだが、新ジャンルの味わいは発泡酒以上に強いキレから、ビールに近い味バランスのものまでと多岐にわたっていた。

次項では、2018年4月に各社から発売されたビール(旧法であれば発泡酒カテゴリ)の味わいを示す。

酒税法改正後は、『苦み』と『酸味』の質の変化に注目

2018年4月に各社から発売された新定義に基づいたビールの新商品(旧法であれば発泡酒カテゴリ)の個々のバランスを図3〜8に示し、図9にはこれらのポジショニングを示した。

【図3】グランマイルド[アサヒビール(株)]
【図4】ひこうき雲と私 レモン篇[麒麟麦酒(株)]
【図5】海の向こうのビアレシピ〈オレンジピールのさわやかビール〉
【図6】海の向こうのビアレシピ〈芳醇カシスのまろやかビール〉
【図7】ビアチェッロ[ジャパンプレミアムブリュー(株)]
【図8】SORRY UMAMI IPA[(株)ヤッホーブルーイング]
【図9】新商品のポジショニング

2018年4月に発売された商品は、全体的に『濃厚さ』が強めな傾向が見られた。またビールはそもそも、発泡酒や新ジャンルに比べて『キレ』は控えめな傾向にあるが、そんな中でも4月発売の商品はよりキレを控えめに設計している商品が多かった。その中で唯一キレが強かった『海の向こうのビアレシピ〈芳醇カシスのまろやかビール〉(サントリービール株式会社)』は、濃厚さとキレ(酸味由来)が共に強いというビールとしてはあまり類を見ない個性的な味バランスを呈していた。しかし、この商品は原料にカシス果汁を使用しているため、一般的なビールのキレだけではなく、カシス果汁に由来するフルーツの酸味も併せ持っており、『酸味の質』が今までの商品群とは異なると考えられる。また、この特徴は『苦み』にも共通しており、今までの『ホップ由来の苦味』だけではない柑橘のピールに由来する『質の異なる苦み』を併せ持っているとも考えられる。

今後の商品設計は、『香り』がポイント

今回は味のみの特徴を取り上げたが、前述のとおり法改正後は香辛料やハーブ類の使用も可能となったことで、味への影響もさることながら『におい』の特徴も多様化すると考えられる。また、ビールの特徴的な味わいである『苦み』と『酸味』の質が多様化することで、新ジャンルの味わいの多様化に加えビールの味わいも多彩になり、今までのビール・発泡酒・新ジャンルの境が不明瞭になると考えられる。それゆえ今後の商品は、味のみでの特徴付けが難しくなり、『香り』に特徴を持たせた商品が今まで以上に増えることが予想される。ビールの必須原料である麦芽やホップとの相性はもちろんのこと、副原料同士の『香りの組合せ』による風味向上が今後の商品設計の鍵となってくるのではないだろうか。

味香り戦略研究所について

味覚センサなどによる食品の味の数値化がコア技術。
2004年9月の設立以来、蓄積した12万アイテムを超える味データなどをデータベース化し、商品開発や品質管理、売場づくりといったコンサルティングを行うほか、独自のノウハウを基に味にまつわるセミナーや講演活動を行い、食品産業の発展に貢献しています。
【URL https://www.mikaku.jp/】

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株式会社味香り戦略研究所 矢嶌(やじま)
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