日本国内の酒類市場(課税ベース)は1999年をピークに、その後の人口減少と共に毎年漸減傾向にあり、酒類メーカーは厳しいマーケット環境にある。その中で、2010年代以降順調な伸びを示すのが、酎ハイやハイボールなど低アルコール飲料(RTD飲料)である。各種調査でも2010年に比べ直近では2倍以上の市場規模を誇り、酎ハイ、ウイスキーハイボール以外にも芋や麦焼酎のハイボールなど種類も増えている。味香り戦略研究所では、商品開発ノウハウの獲得、テストマーケティングの一環として、焼酎ハイボールを委託製造、販売しているが、新商品「ニッポンのハイボールハイ坊」の開発秘話をリポートする。
【図1】に国税庁と厚生労働省の調査資料を示した。酒類消費数量は2000年前後をピークに減少傾向にあり、健康志向の高まりなどもあり、20代の男女では「飲まない」、「ほとんど飲まない」が過半数を超え、若者のアルコール離れが進んでいることが分かる。一方、新型コロナ感染症禍以前から、イエノミ需要は存在し、低アルコール飲料でお酒を楽しむという消費者も少なからず存在していた。
2001年にキリン氷結が誕生したのをきっかけに、2006年にタカラ焼酎ハイボール、2009年にサントリーウイスキー角ハイボールが発売され、2010年代はこれらのNB品が市場のけん引役となった。この数年間、巣篭もり需要の増加により、以前は高炭酸やストロングタイプのアルコール度数9%近くの商品に人気があったが、最近では3~7%程度の低アルコール飲料が数多く開発、製造されている。
当社では2015年に、それまでほぼNB品では存在しなかった芋焼酎ハイボールを蔵元(西酒造)との間で開発協力し、「鹿児島ハイボール」として開発、委託製造を開始した。本製品を発売以前、市中の飲食店や居酒屋では芋焼酎や麦焼酎の炭酸割りを消費者が好んで飲んでいるにも関わらず、RTD飲料のNB品としては製品が存在していなかったことなどから、各種市場調査を行い、一定の潜在ニーズがあることが判明したため、開発に着手した経緯がある。開発にあたっては、原酒に炭酸をただ充填するだけではなく、個性と特長を持つ2種類の原酒をブレンドし、原酒の香味特徴から添加するフレーバーを検討し、製品化した。
2019年には、「鹿児島ハイボール」を2ラインナップとして、芋焼酎の持つコクやうま味を楽しむ「まろやか」なタイプ、淡麗でライトな味わいの「さわやか」なタイプを投入した。
鹿児島ハイボールの開発にあたっては、アルコールをあまり飲まない若者世代(20代)もターゲットとしたことから、アルコール感を強く感じさせず、スッキリした味わいと芋焼酎独特の雑味を抑えた味わいになるように香味設計した。【図3】
続いて、当社では鹿児島ハイボールに続き、2020年開催予定であった東京オリンピックに来訪するインバウンド客も想定し、2019年以降、和のハイボールの可能性を調査した。ハイボールと言えば、サントリー角ハイボールなどウイスキーハイボールを想像する方が多いと考えられるが、起源を海外に持つハイボールのベースはモルト原酒(大麦)とグレーン原酒(トウモロコシなど)ウイスキーである。それがニッポン(日本)であれば、それはどうなるのか。試行錯誤した結果、芋焼酎と麦焼酎をブレンドしたらどうなるであろうかと考え、蔵元の原酒同士を様々にブレンド、配合し、原酒を選定した。一つは8年以上、シェリー樽で熟成させた芋焼酎「天使の誘惑」。ブランデーのような芳醇な香りに穀物を連想させるコクと甘みを持った原酒。もう一つは大麦と大麦麹で造った麦焼酎「一粒の麦」。さらりとした喉越しながら、ウイスキーに負けない骨太のうま味、キレ味すっきりの味わいのある原酒。そして香りづけに3年熟成の梅酒を少し加えて香味を整えた。
【図4】にある通り、他の芋焼酎ハイボールが持つ芋焼酎のどっしりした香味特長と、サントリー角ハイボールや宝CAN酎ハイ、日本コカ・コーラ檸檬堂塩レモンサワーなどの雑味の少なさと酸味のシュワシュワ感どちらも併せ持つNB品の中間的な味わいを目指した。
【図5】は、「鹿児島ハイボール」、「ニッポンのハイボールハイ坊」を代表的なNB品と比較したものである。甘味を抑えたすっきり感と、雑味の少なさを体現し、コク、酸味のバランスが取れた味わいを目指し、このような香味バランスとした。穏やかな味わいであるため、すき焼きやおでんなど和食のみならず、ジューシーなハンバーグやビーフシチュー、中華料理では八宝菜などに合う仕上がりとなっている。興味のある方は是非試して頂きたい仕上がりとなっている。
RTD飲料では、原酒の製品名を冠にするハイボールが主流であるが、敢えてご当地をイメージさせる「鹿児島ハイボール」や「ニッポンのハイボール」とネーミングしたのか。それは、広く地方創生の一環として、そしてご当地ものによる国や地方が持つ魅力を発信する際に地名こそが優位なブランディングにつながると考えたからである。また、「鹿児島ハイボール」では芋焼酎を原酒としたが、違うタイプの原酒をブレンドした「ニッポンのハイボールハイ坊」は芋焼酎と麦焼酎と言う異なる種類の原酒を使用する。世界に誇る日本の蒸留酒の可能性を市場に問う意味合いもあり、今後も挑戦を続ける予定である。
鹿児島ハイボール 公式サイト
ニッポンのハイボール ハイ坊 公式サイト