サマリー
■ 若年世代は甘味を好み、年齢を重ねると苦味の許容が高まる
■ 男性は「塩味」を好み、女性は「酸味」を好む傾向
■ 北海道は「甘味」と「塩味」、四国は「うま味」、九州・沖縄は「甘味」、「塩味」、「苦味」を好む
■ 商品の味データと地域の嗜好について一致していることが購買データ(リピート率)にも出現
「食」を科学する株式会社 味香り戦略研究所(本社:東京都中央区、代表取締役社長:小柳 道啓、以下「味香り戦略研究所」)は、日本全国7,500人以上を対象に味の嗜好に関するアンケート調査を実施。12万アイテムを超える食品の味データベースを基に開発した独自の嗜好性診断ロジックによって、性別・年代、地域によって好まれる味の傾向が異なることがわかった。
味香り戦略研究所は、世界中の食品の味覚ビッグデータや解析技術を駆使して食品の「味」を数値化する手法で「味」をわかりやすく表現する次世代のフードテックシンクタンク企業である。
これまで、味データによって食品の味の特徴を示すことはできたが、「おいしさ」については個人の好みによるところが大きいため、データから「おいしさ」を判断することは難しいとされていた。しかし、味香り戦略研究所は味覚センサによる食品の味データの蓄積から嗜好性診断ロジックを開発、個人の嗜好をパターン判別できる嗜好性診断プログラム(※1)をサービス提供しており、個人の味の嗜好を明らかにすることを可能とした。
今回、日本全国の9地域、15〜79歳の男女7,691人に行ったwebアンケート調査結果に「嗜好性診断ロジック」を用いて、年代によって好まれる味の変化や性別による味嗜好の傾向、また9地域の味の好みの違いが確認できた。
年代による違い
グラフは五味(苦味、旨味、塩味、甘味、酸味)のバランスを表している。中心の太いグレーラインが全回答者の平均値であり、味の嗜好を判断する基準とした。平均よりも外側にある味は好まれる味わい、内側にある味は好まれない味わいと解釈した。
回答者のデータを10代から70代までの年代別に集計した結果、「甘味」と「苦味」に対する傾向の変化が明らかになった。10代~20代の若年層では甘味の数値が高く、年齢を重ねるにつれ甘味に対する好みが下がってくる。
逆に若年層では苦味が許容されず敬遠される傾向にあるが、加齢とともに好まれるようになることが示された。苦味は毒のシグナルであると言われており、本能的に忌避される味であるが、食経験によって獲得されていく嗜好である事と一致する。甘味についてはエネルギー獲得の観点から本能的に人が好む味わいであるため、比較的若い世代には好まれやすい。一方で中年層以降では、多くの食経験から幅広い嗜好を獲得し様々な味を好むようになる傾向があるため、相対的に甘味の割合が低くなっているのではないだろうか。また、これらの傾向は「食習慣」や「慣れ」とも関連が深いと推測しており、若年層よりは中年層以降の方が本人の意思で日々の食事を選択する機会が多い事から、嗜好に影響を与える大きな要素だと考えている。
今回の調査結果を男女で比較すると、どの世代においても、男性は塩味を好む、女性は酸味を好む傾向がみられた。
地域による違い
日本全国の9地域で調査を行った結果、地域ごとの嗜好の特徴が現れた。
北海道・東北では甘味と塩味を好む傾向があり、塩気の強い保存食を食べる寒い地域の特徴が現れていた。更に細かくみると、東北は甘味と塩味の両方を好むパターンが多く、北海道では甘味のみを強く好むパターンや塩味のみを強く好むパターンがそれぞれ多くなっており、各地域で好まれる味わいには違いがあると考えられる。
その他、だし文化の西日本ではうま味を好む傾向、甘い醤油が特徴の九州では甘味に加え、塩味や苦味も強い濃い味を好む傾向がみられた。
地域の嗜好と味データの一致
図3、図4には、袋入りインスタント麺を味覚センサ(※2)で分析した結果を示した。この分析結果と各地域の嗜好パターンを照らし合わせると、甘さ、塩味に特徴のある「東洋水産 マルちゃん カレーうどん」は北海道・東北の嗜好向き、「日清食品 チキンラーメン」は苦味に特徴があるため、九州・沖縄の嗜好に近いと推測できる。
この結果を確認するために、FOODATA(※3)の2022年2月~2023年1月のID-POS(※4)およびCVS-POS(※5)を用いて、両商品の地域別のリピート率を確認した。(図5、図6)
「東洋水産 マルちゃん カレーうどん」のリピート率は、北海道・東北で28.6%となり近畿・中国・四国に次いで2番目のリピート率であった。うどん文化である西日本地域と比較しても高い結果になっていると考えている。「日清食品 チキンラーメン」は九州・沖縄が37.6%で他地域よりも突出していた。もちろん、味だけが結果の要因ではないが、これらの商品は各地域で受け入れられやすい「味」であると言えよう。
この他にも、唐揚げの味付けを例にあげると、北海道で食べられているザンギ(唐揚げ)は塩気の強い濃い味付けがなされており、九州では甘口醤油に漬け込んだ甘味の強い味付けが特徴とされる。西日本(近畿、中国、四国)では醤油より塩で味付けされる場合が多く、シンプルに肉のうま味を感じられる味付けが好まれるようだ。唐揚げを例にとっても、地域別の嗜好パターンと同様の傾向が見られ、ご当地商品などの商品開発に嗜好性データが活用できると考えている。
今後の展望
年代や地域ごとの「味の好み」については、地域特有の食文化などから感覚的に捉えられてきたが、当社独自の嗜好性診断ロジックを用いることでそれらの違いを数値として示すことができるようになった。商品の味データと嗜好性診断ロジックを掛け合わせることで、その商品が「どの年代に好まれる味なのか」、「どの地域で好まれる味なのか」を推察することが可能となった。地域限定商品の開発やご当地企画を実施する際の商品選定の参考データとして活用できるだろう。
また、消費者個人の嗜好パターンを知ることができれば、世代や地域の枠にとらわれない「個人の嗜好に合った商品」を選ぶことができるため、商品レコメンド機能における重要な要素の一つとして、幅広い活用が可能となる。
消費者としても、自身の嗜好を知ることが買い物や飲食店選びなどの日々の消費行動に変化をもたらすきっかけとなり、マスコミュニケーションからパーソナルコミュニケーションへの道標になるのではないだろうか。
今回は日本国内を対象としているが、将来的には世界中の人々の嗜好パターンを明らかにし、海外旅行者に対する日本の食品のレコメンドや輸出入向け商品の選定などへの活用も計画している。
味香り戦略研究所では、今後、個人の嗜好を診断できるwebコンテンツの公開を予定している。これにより、生活者に対して嗜好をパターン化できるという概念の周知、併せて、多くの嗜好データを収集することで、データ精度の向上に努めていきたい。
■注釈
※1 嗜好性診断プログラム:消費者個人の味の嗜好を大きく5区分、22種類のパターンに判別するサービス。嗜好タイプ別の商品開発、商品レコメンドなどを可能にする。
※2 ㈱インテリジェントセンサーテクノロジー製の味認識装置SA402BまたはTS-5000Z。通称「味覚センサ」。尚、図3、図4は味認識装置SA402Bで分析した測定結果である。
※3 味香り戦略研究所が伊藤忠商事株式会社、ウイングアーク1st株式会社と業務提携し開発した、食の商品企画・開発領域におけるDX支援サービス。
※4 FOODATAのID-POS 商品分析 ⇒ 商品サマリー分析(売上・指標・購入者)の結果
※5 FOODATAのCVS-POS 商品分析 ⇒ 商品サマリー分析(売上・指標・購入者)の結果
■調査概要
実施時期:2022年12月
方法:インターネットによるアンケート
対象:年齢 15歳~79歳(5歳刻み13セグメント)
性別 男女
居住地 全国9地域(北海道、東北、首都圏、北陸・信越、東海、近畿、中国、四国、九州・沖縄)
合計7,691人 (年代・性別・居住地の各セグメント、均等数)
味香り戦略研究所について
「食」を科学する株式会社味香り戦略研究所では、味・香り・食感等の「おいしさ」の可視化技術を活用し、12万件を超える食品の味覚データベースを構築。これを基にフードデジタルソリューションサービス、具体的にはパーソナライズド食品の開発や海外マーケットに向けての味のカスタマイズ、味覚と健康に関するコンサルテーション等を提供しています。
【URL https://www.mikaku.jp/】
本件に関する報道関係者 お問合せ先
株式会社味香り戦略研究所 研究開発本部 研究開発部
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