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自主研究

過去13年分の味データから見える即席麵の味わいの変化
~減塩・健康志向にも応える「うま味」の役割~

「食」を科学する株式会社 味香り戦略研究所(本社:東京都中央区、代表取締役社長:小柳 道啓)は、2004年の設立以来積み重ねてきた12万アイテムを超える味覚データベースから、2010年~2022年の13年間の即席麺の味わいの変化を分析した。

味香り戦略研究所は、食品の味覚ビッグデータやAI解析技術を駆使し、食品の「味」を数値化する手法で、「味」をわかりやすく表現する次世代のフードテックシンクタンク企業である。

1958年にスープも同時に調理できる世界初の即席麺である日清食品の「チキンラーメン」が発売されて以来、即席麺の市場は拡大し続けており、2020年2月ごろからは新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛で内食需要が高まり、即席麺の需要が急速に拡大。日本即席食品工業協会が調べた即席麺の2022年度の国内需要は、前年度比1.8%増の59億9141万食で、2年ぶりに過去最高を更新した。¹⁾

市場を拡大し続ける即席麺の中でも、定番の味としてしょうゆ、塩、みそ、とんこつなどが挙げられるが、その中でトップの人気を誇るのがしょうゆ味である。【図1】

【図1】即席カップ麺金額PI値上位100商品を味ごとに分類した結果
(FOODATA:2022年11月~2023年10月の期間集計ランキングより作図)

今回はしょうゆ味の即席麺に着目して、時代ごとの味わいの変化を分析した。

サマリー
〇即席麺のしょうゆ味はあっさりながらも、様々なうま味を取り入れて、より風味豊かな味わいに。
〇消費者の意識は減塩、健康志向が定着、即席麺の味わいも減塩志向に対応。

即席麺(しょうゆ味)の「味の移り変わり」を分析

【図2】に年代ごとの即席麺しょうゆ味の「うま味」と「うま味の余韻」のバランスおよび「うま味」と「塩味」のバランスを示した(2010年~2022年に収集した即席カップ麺の分析データ/分析数133)。ゼロ点は全商品の平均値とした。

【図2】即席麺しょうゆ味の時代ごとの味バランス

「うま味」と「うま味の余韻」【図2左】は、右上に移行するほど、うま味が強くなっていることを示す。うま味とうま味の余韻は近年の商品ほど右上に移行し、うま味が際立った味わいへと変化していているが、「うま味」と「塩味」【図2右】は右下に移行しており、塩味、いわゆるしょっぱさが穏やかになりうま味が強くなっていた。

この結果から、即席麺のしょうゆ味は時代とともに、塩味が強い味わいから、あっさりとした穏やかな味わいに変化しており、代わりにうま味やその余韻を際立たせた味わいが多くなっていると推測された。

その要因として「うま味によるおいしさの増強」と「うま味の減塩効果」が考えられる。
うま味調味料を味噌汁に適量添加すると、よりおいしく感じられると言われている。これはうま味物質がプラスされたことによって口の中で感じられる香りが強くなり、味わい(風味)が強くなるためである。²⁾
この現象を即席麺にも利用し、うま味を強くすることにより香りを含めた全体的な風味を強めて、即席麺の味わいをよりおいしく感じられるようにしているのではないだろうか。

また、うま味を活用すると、おいしさを損なわずに減塩できることが確認されている。標準的なかき玉汁を用いた実験では、うま味を強くした場合とそうでない場合を比較したとき、うま味を強くした場合は使用する食塩の量を約30%減らしてもおいしく感じられることが分かった。³⁾

つまり、背景として消費者の減塩意識の高まりがあり、消費者のニーズに答えるように即席麺も塩分の量を控えめにしつつも、おいしさを損なわないようにうま味を強くしているのではないだろうか。

消費者の減塩・健康に対する意識調査

実際に消費者の意識が減塩、健康志向へと向いているのかを調査した。厚生労働省は生活習慣病予防の一環として減塩を推奨しており、「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、1日の推奨塩分摂取限度は2015年改定基準に比べ、男性8.0g→7.5g未満、女性7.0g→6.5g未満と男女ともに0.5g低く設定された。⁴⁾

「令和元年国民健康・栄養調査」によると、実際の食塩摂取量は男性10.9g、女性9.3gであり、2009年から2019年の10 年間でみると、食塩の摂取量は推奨の値には及ばないものの減少傾向にある。⁵⁾本調査は2019年までしか実施されていないが、これまでの推移から2020年以降も減少傾向にあることが推測される。【図3】

【図3】日本人の食塩摂取量の推移(「令和元年国民健康・栄養調査」より作図)

次に、消費者の減塩に対する関心を調査した。味香り戦略研究所が2016年に実施した減塩に関するアンケート調査(調査実施期間:2016年9月16〜23日/調査対象:全国の男女771名)⁵⁾では、「塩分を気にしている」と回答した人が78.1%と減塩に対して関心の高さがうかがえた。しかしながら課題もあり、「味が薄い、満足感がない」、「美味しくなさそう」といった減塩商品の味わいに関するネガティブなイメージがぬぐい切れていなかった。【図4】

【図4】減塩対策、減塩商品に対する意識調査結果

このように、2016年のアンケート調査結果から消費者の減塩意識の高さが明らかになり、厚生労働省の調査においても2019年時点で国民の塩分摂取量が低下傾向にあることから、現在の消費者の減塩商品に対する需要は高まっており、即席麺業界にも少なからず影響を与えているのではないだろうか。

実際に、2023年には日清食品グループの「カップヌードル 塩分控えめPRO 1日分のカルシウム&ビタミンD」や、サンヨー食品株式会社の「サッポロ一番 減塩 しょうゆ味」などが発売されており、即席麺業界も減塩を意識している消費者をターゲットにしていることがうかがえた。

定番商品と減塩商品の味わいを比較

即席麺業界が減塩商品に取り組んでいることは分かったが、減塩商品の味わいに関するネガティブなイメージに対してはどのような対策がなされているのか、先ほど取り上げた2社の定番商品と減塩商品の味わいを比較分析することでメーカーの対策を調査した。

カップヌードルとサッポロ一番の味わいを定番商品と減塩商品で比較したところ、減塩商品では「塩味」が減少し、うま味もしくはその余韻が増加していることが明らかになった。【図5】

【図5】通常商品と減塩商品の味わいの比較

この結果は、先に紹介した「うま味によるおいしさの増強」と「うま味の減塩効果」の内容が当てはまると考えている。

すなわち、塩分量を減らしても、畜産、海産物や野菜など様々なうま味を上手く活用しているほか、脂の工夫(香り要素)などでおいしさを保つことができ、減塩商品に対するネガティブなイメージの払拭が図られているのではないだろうか。

まとめ

即席麺のしょうゆ味は、あっさりとしながらもうま味が際立った傾向に変化していることが分かった。

味わいの変化の要因として、国の方針などによる消費者の減塩への関心の高まりと、減塩商品への消費者のニーズが考えられ、しょうゆ味の味わいがあっさりしながらもうま味が強い傾向にあるのは、おいしさを損なわずに食塩の量を減らすために「うま味」が重要な役割を担っているものと今回の調査から推測している。


引用

1)日本経済新聞社:即席麺業界 市場規模・動向や企業情報
  https://www.nikkei.com/compass/industry_s/0321
2)Umami compounds enhance the intensity of retronasal sensation of aromas from model chicken soups
  T.Nishimura,S.Goto,K.Miura,Y.Takakura,A.S.Egusa&H.Wakabayashi:Food Chem.,196,577(2016)
3)うま味の基本情報 特定非営利活動法人 うま味インフォメーションセンター
  https://www.umamiinfo.jp/what/whatisumami/
4)日本人の食事摂取基準(2020年版)
  https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf
5)令和元年国民健康・栄養調査報告
  https://www.mhlw.go.jp/content/001066903.pdf
6)「減塩」訴求のポイントはどこに?! ポテンシャルユーザーを取り込むための2つのポイント
  https://mikaku.jp/news/2016/2522/

味覚センサとは

九州大学と株式会社インテリジェントセンサーテクノロジーが共同開発した、世界初の味覚を測定するセンサ。「おいしさ」の重要な構成要素となる基本的な味覚(旨味、苦味、塩味、酸味、甘味、渋味)を数値化し、客観的に表現することが可能。

味香り戦略研究所について

「食」を科学する株式会社味香り戦略研究所では、味・香り・食感等の「おいしさ」の可視化技術を活用し、相対評価で捉えられていた感性数値を客観化して、評価基準、尺度としての活用を可能にしました。設立以来、食品のデータ化を続け、現在では12万件を超える食品の味覚データベースを構築しています。これを基に、食品の開発や品質管理、市場調査、海外マーケットに向けた味のカスタマイズ等、食にまつわるさまざまな課題にデータを活用するフードデジタルソリューションサービスを提供しています。

【会社概要】
株式会社 味香り戦略研究所【https://mikaku.jp/】
本社所在地:東京都中央区新川1-17-24 NMF茅場町ビル8F
代表取締役社長:小柳 道啓
設立年:2004年9月
事業内容:フードデジタルソリューション事業

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株式会社味香り戦略研究所 (研究開発本部 研究開発部)
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